姫路から大阪・堺の間に、
焼きアナゴ業者が約80件。
この全社を回る――それが、私の新たなミッションだった。
焼きアナゴの加工場は、夜が明ける前から動き出す。
焼き台に火が入り、ガスや炭火の炎がゴウゴウと音を立てる。
温度は数百度。
焼き職人たちは、汗だくになりながらアナゴをひっくり返していた。
作業は午前2時から始まり、6時にはすべて終える。
わずか4時間の間に、何百本ものアナゴを焼き上げる。
その光景を目の当たりにして、
私は思わず心の中でつぶやいた。
「自分はまだまだ楽をしてるなぁ……。」
――命を懸けて焼く人たちがいる。
――その人たちに使ってもらえる“竹串”を作らねばならない。
そう心に誓い、3か月かけて全業者を一軒一軒訪問。
だが、返ってくる言葉はどこも同じだった。
「うちはもう決まった業者があるんや。」
「何年も付き合いがあるから、いまさら変えられへん。」
「前にも別の人が売り込みに来たけど、無理やったで。」
断られて、断られて、また断られる。
まるで、扉をノックしても全部閉ざされているようだった。
しかし――。
私はあきらめなかった。
昔、マグロの販売をしていた頃、
寿司屋を一軒ずつ回って営業していた経験がある。
“断られてからが本当のスタート”というのを、身に染みて知っていた。
だから今回も、
「一度断られたくらいで引き下がるもんか。」
そう思いながら、
しつこく、何度も、何度も足を運んだ。
そしてある日――。
「中川さん、ちょっと試しに使ってみようか。」
その言葉を聞いた瞬間、胸が熱くなった。
少しずつ、少しずつ、扉が開き始めていた。
やがて、いくつかの業者から正式な注文が入る。
初めて竹串を納め、喜ばれる声を聞いたとき、
あの日の倉庫のカビの光景が頭をよぎった。
「ここまで来たか……。」
苦労の汗が、少しだけ報われた気がした。
