焼きアナゴの竹串――。
誰が聞いても地味な素材だが、私にとっては人生をかけた“主役”だった。
「この竹串、もっと他の用途に使えないだろうか?」
「もっとたくさん買ってくれるお客さんはいないだろうか?」
そんなことを、毎日ひたすら考えていた。
ある日、何気なく新聞を広げて目に飛び込んできたのは――
“100円ショップ、毎月50店舗オープン”の見出しだった。
「これや!」と、雷に打たれたようにひらめいた。
100円ショップ向けに“BBQ用竹串”として売り込めばいい。
焼きアナゴ用が、バーベキュー用に化ける――まさに一石二鳥じゃないか。
しかし、すぐに現実が顔を出す。
「そんな大企業が、いきなり門外漢の私なんかに相手してくれるだろうか?」
飛び込み営業しても、きっと門前払い。
電話をしても、たぶん担当者にはつながらない。
……でも、悩んでても始まらない。
私は学生時代、ヨット部で荒波の中を走ってきた。
瀬戸内海を無謀に横断して、新聞に名前が出たこともある。
(しかも“遭難しかけた”のは一度や二度ではない!)
海での航海は命がけだが、商売の航海は死なない。
ならば――「当たって砕けろ」だ!
その勢いのまま、私は100円ショップの本社に飛び込んだ。
だが、やはり担当者には会えなかった。
それでも引き下がらない。
名前だけでも聞いて、後日電話をかける。
“焼きアナゴの竹串”が、“BBQのスター”になるかもしれない――。
この物語は、まだ序章にすぎない。
