ようやく完成した「焼きアナゴの竹串」。
何度も現地に足を運び、試作を繰り返し、
やっとの思いで輸入にこぎつけた。
神戸の倉庫に届いたその荷を前に、
胸の鼓動が高鳴っていた。
「これでようやく、スタートラインに立てる。」
ところが――。
段ボールを開けた瞬間、息をのんだ。
目の前に広がっていたのは、カビ、カビ、カビ。
全商品、まっ白なカビに覆われていた。
「うそやろ……?」
思わずその場にへたり込んだ。
せっかくの少ない資金をはたいて仕入れた竹串。
出張費、輸送費――すべてを合わせれば、まさに全財産を賭けた一便だった。
それが、すべて廃棄処分。
業者に引き渡し、さらに廃棄費用まで支払う羽目に。
倉庫の片隅で、私はしばらく動けなかった。
手のひらを見つめながら、
「自分の人生、なんでこうもうまくいかんのやろう……」と、
声にならない言葉が漏れた。
震災融資で再起を誓い、
ようやくつかんだチャンスが、カビの山とともに消えていく。
――やはり、40歳での起業は無謀だったのか?
――こんなことで、本当に家族を養っていけるのか?
夜になっても、心は沈んだままだった。
「万事休す」という言葉が、
その夜ばかりは胸にずっしりと突き刺さった。