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公開日:2025.10.28
創業者の歩み・思い 起業について

焼きアナゴの街を歩く ― しつこさこそ、営業の極意

姫路から大阪・堺の間に、
焼きアナゴ業者が約80件。

この全社を回る――それが、私の新たなミッションだった。

焼きアナゴの加工場は、夜が明ける前から動き出す。
焼き台に火が入り、ガスや炭火の炎がゴウゴウと音を立てる。
温度は数百度。
焼き職人たちは、汗だくになりながらアナゴをひっくり返していた。

作業は午前2時から始まり、6時にはすべて終える。
わずか4時間の間に、何百本ものアナゴを焼き上げる。

その光景を目の当たりにして、
私は思わず心の中でつぶやいた。

「自分はまだまだ楽をしてるなぁ……。」

――命を懸けて焼く人たちがいる。
――その人たちに使ってもらえる“竹串”を作らねばならない。

そう心に誓い、3か月かけて全業者を一軒一軒訪問。

だが、返ってくる言葉はどこも同じだった。

「うちはもう決まった業者があるんや。」
「何年も付き合いがあるから、いまさら変えられへん。」
「前にも別の人が売り込みに来たけど、無理やったで。」

断られて、断られて、また断られる。
まるで、扉をノックしても全部閉ざされているようだった。

しかし――。

私はあきらめなかった。

昔、マグロの販売をしていた頃、
寿司屋を一軒ずつ回って営業していた経験がある。
“断られてからが本当のスタート”というのを、身に染みて知っていた。

だから今回も、
「一度断られたくらいで引き下がるもんか。」

そう思いながら、
しつこく、何度も、何度も足を運んだ。

そしてある日――。

「中川さん、ちょっと試しに使ってみようか。」

その言葉を聞いた瞬間、胸が熱くなった。
少しずつ、少しずつ、扉が開き始めていた。

やがて、いくつかの業者から正式な注文が入る。
初めて竹串を納め、喜ばれる声を聞いたとき、
あの日の倉庫のカビの光景が頭をよぎった。

「ここまで来たか……。」

苦労の汗が、少しだけ報われた気がした。