焼きアナゴの竹串は、思いもよらず大手円100均一ショップのBBQ串として大化けした。
まさか、アナゴを刺していた串が、キャンプ場で肉を焼くスターになるなんて、誰が想像しただろう。
しかし――である。
BBQの串だけでは、震災融資の借金を返すにはとても足りなかった。
「このままでは、また海の向こうの強風に押し戻されてしまう。」
そう思ったとき、冷静に考えてみた。
中国には、他にも仕入れできる商品が無数にあるはずだ。
そうして向かったのが、浙江省 義烏(イーウー)。
世界最大級の小商品市場がある街だ。
ただ、当時の義烏は今とは全く違った。
信号はたった3〜4個。
街はのんびり、車はすいすい。
タクシーも手を上げたらすぐ止まる。
そして驚いたのがホテル代。
1泊2,000〜3,000円、朝食付き。
ビジネス出張の天国のような街だった。
市場に足を踏み入れると、まさに宝の山。
雑貨、食器、アクセサリー、日用品……。
見渡す限りの商品、商品、商品。
「これや!ここから提案したら、いくらでも広がる!」
案の定、均一ショップに商品を紹介すると、高確率で採用が決まった。
サンプルを送り、見積りを提出し、採用通知を受け取った日には、胸が熱くなった。
しかし、ここで安心したらいけない。
“採用が決まった” ≠ “納品できる”
当時、中国の中小工場は輸出許可書を持っていなかった。
だから、工場 → 貿易商社 → 船会社 → 日本港 → 倉庫 → 検品
という複雑なルートで進める必要があった。
そして――問題は日本に到着してから始まった。
コンテナをデバン(荷下ろし)し、商品を開封して検品すると……
指示したアソート(組み合わせ)が全部バラバラ。
しかも、ガラス製品は薄い紙で一個ずつ包んであるだけ。
結果――
輸送中にこすれ合って、ガラスが欠けている。
「……………。」
倉庫の中に、しばし沈黙が落ちた。
出荷できない。
返品もできない。
作り直しにも時間がない。
どうする????
胸に、じりじりと焦りが走る。
ここでの判断が、会社の未来を決める。
――つづく。
